田植機の条数は「適期内の面積」から決める
田植機の選び方で最初に整理するのは、年間の水稲作付面積ではなく、移植適期のうち実際に田植えへ使える日数と時間です。品種・苗種・移植予定日別にほ場を並べ、雨天順延日、代かきとの間隔、オペレーターの勤務、苗運搬担当の確保を日ごとに記入します。作業受託分や今後集積する予定地も含め、「最も詰まる連続期間に何haを終える必要があるか」を出すと、必要能力の過不足を見つけやすくなります。
カタログの作業能率は比較の入口であり、そのまま一日の処理面積にはできません。ヤンマーYR4J・YR5J・YR6Jの公式諸元では、作業能率の計算値は4条が18分、5条が14分、6条が12分/10aで、施肥機付きではそれぞれ22分、16分、14分/10aです。ただし、これは同シリーズ内の計算値です。実際には旋回、苗・肥料の補給、田替え、農道移動、調整、洗浄などが加わるため、候補機ごとに一日の実演工程を組んで確認します。
農林水産省の大区画ほ場整備に関する資料でも、区画拡大と面積規模に適した機械の組み合わせによって田植えの能率が変わる一方、苗補給が作業効率を制約すると説明されています。したがって「面積が増えたから最大条数」ではなく、ほ場一覧から長辺、区画面積、変形の程度、田替え回数を集計し、候補機ごとに移植期間全体の工程表を作るのが実務的です。能力に余裕を持たせる場合も、その余裕を雨天予備、受託拡大、故障時の遅れのどれに使うかを明確にします。
条数より先に進入口・農道・格納庫を実測する
条数を増やすと植付幅は広がりますが、機体が自家の作業動線を通れるとは限りません。全ほ場を回り、進入口の有効幅、段差、勾配、橋や暗渠部分の幅、農道の狭窄部、旋回場所を測ります。格納庫は入口幅と高さだけでなく、植付部を下げた状態の全長、予備苗台などを収納した状態、点検のために周囲へ確保する空間も確認します。運搬車を使う場合は、荷台寸法、積載条件、固定方法、積み降ろし場所を候補機の取扱説明書と販売店で照合します。
同じ条数でも機体寸法や質量は仕様によって異なります。公式諸元の一例では、YR4Jは全幅1,565mm、YR5J・YR6Jは1,845mmで、作業時の幅は別に示されています。施肥機を付けると質量も増えます。こうした数値はシリーズ間で共通とは限らないため、販売名称だけで判断せず、見積書に記載された型式・仕様区分の主要諸元を使って照合してください。パンフレットの写真や「コンパクト」という表現だけで、通行可能とは判断できません。
乗用型が進入しにくい湿田や棚田に対応する歩行型もメーカーの公式ラインアップにあります。一方、歩行型なら小区画すべてに適する、乗用型なら必ず高能率になるとは限りません。最も枚数が多い区画群を基準にしつつ、進入できない田だけ委託する、共同利用機を使う、別方式を残す選択肢も比較します。実演時は条件のよい一枚だけでなく、短辺が狭い田、変形田、普段苦労する進入口でも販売店立ち会いの下で操作性を確かめます。
直進支援・施肥機は補給まで含めて選ぶ
直進アシストは、経験の浅い作業者へ田植えを任せたい、運転中に苗残量や植付状態を確認したい、といった目的が明確な場合に検討します。農研機構のスマート農業実証成果では、経験の浅い作業者で作業時間が平均18%短縮した一方、効果を生かすにはおおむね50m以上の行程長が必要とされています。また、山、木立、建物などによる測位への影響や、RTK基地局の要否も事前確認項目です。直進、旋回、条止めのどこまで支援するかは機種ごとに異なるため、機能名ではなく実演する工程で比べます。
側条施肥機を選ぶときは「田植えと同時に施肥できる」だけで決めません。現在使う肥料の種類と物性に対応するか、10a当たり設定範囲、ホッパ容量、残量確認、繰出し量の校正方法、詰まりの確認、作業後の排出・清掃まで調べます。補給回数が増えて本機を待たせるなら、施肥機付きの公称能率を得られません。候補機の容量と自家の施肥量から一回の搭載で進める面積を計算し、どの畦で、誰が、何袋を補給するかまで動線に落とします。
予備苗台の枚数も同じ考え方で評価します。必要苗箱数を栽植密度と育苗方式に合わせて算出し、軽トラックや苗ラックから機体へ渡す場所、空箱の回収、補給中の停止方法を実演します。密苗、疎植、直播などを取り入れる場合は、候補仕様が地域の苗条件や栽培体系に対応するか、メーカーと地域の普及指導機関へ確認してください。箱施用剤や除草剤など農薬を扱う同時散布装置を使用する場合は、使用時点の登録ラベルで適用作物、使用方法、使用量、使用時期、使用回数、適用機械と注意事項を必ず確認します。
見積もりと実演は同じ条件票で比較する
候補を二、三台に絞ったら、一枚の条件票を販売店へ渡します。条件票には、適期内面積、ほ場枚数と代表的な長辺、最狭進入口、作業人数、苗の方式、肥料の種類、希望する支援機能、運搬方法、格納庫寸法を記載します。見積もりでは、本体、施肥機などの仕様、必要オプション、装着費、運搬・納入、初期設定、通信や基地局に関する費用、定期点検、消耗品、保険、下取りの範囲をそろえます。同じ条数でも仕様が違う見積書を総額だけで比べないことが重要です。
直進支援などの追加投資は、自家の稼働面積と人員条件で再計算します。農研機構の採算規模試算も、機体価格、作業料金、労賃、燃油代、移植可能日数、作業者の熟練度などを仮定しており、その境界値を別の経営へそのまま当てはめることはできません。年間固定費に修繕・通信などの変動費を加え、購入、リース、共同利用、作業委託の10a当たり費用を同じ利用年数で比較します。規模拡大分は確定面積と見込み面積を分け、見込みだけを前提に過大な機械を選ばないようにします。
最終判断前の実演では、始動から格納までを通して見ます。苗載せ、資材補給、進入、直進、旋回、畦際、植付深さの調整、条止め、田からの退出、泥落とし、清掃、格納を確認し、運転者と補助者の両方が扱います。さらに、安全性検査の情報、取扱説明書、保証期間、部品供給、繁忙期の出張修理、代替機対応の有無を確認します。購入日は値引き幅だけで決めず、「適期内に止めずに回せる機体と支援体制か」を最後の判定基準にしてください。