まず機械ではなく、進入路を歩いて見る
農林水産省のコンバイン向け研修資料では、狭い道からほ場へ入る際、草で覆われた路肩を踏み外して転落した事例が紹介されている。収穫前日は、運転者が徒歩で農道から進入口までを確認し、路肩、段差、水路、軟弱部、張り出した枝などを洗い出す。草で境界が見えない場所は視界を確保し、危険箇所には作業者全員が理解できる目印を置く。狭くて余裕のない経路は、現場で無理に通るのではなく、迂回や幅員確保を検討する。
ほ場内でも、畦畔への乗り上げや段差付近の旋回を前提にしない行路を考える。農研機構は、畦畔への乗り上げを必要最小限とし、必要に応じて停車・降車して状況を確認するよう示している。地図や作業票には、単なるほ場番号だけでなく、使用する進入口、避ける場所、籾を排出する位置まで書き込むと、当日の焦りを減らしやすい。機体寸法や通行条件は型式で異なるため、取扱説明書も併せて確認する。
モニターがあっても「人の待機場所」を決める
コンバインは死角が多く、農研機構は後方確認モニターを過信しないよう注意している。カメラの性能や取付位置によって視野と距離感が実際とは異なり、死角が完全になくなるわけではない。作業前に運転席から周囲を見て、補助作業者が見えなくなる範囲を実機で共有する。籾排出、袋の交換、倒伏稲への対応など、補助者が機体へ近づきやすい場面ごとに安全な待機場所を決めておく。
合図は「危ないと思ったら声を出す」だけでは曖昧になる。始動、前進、後進、籾排出、作業再開について、誰がどの合図を出すかを朝礼で確認する。補助者は運転者の許可なく機械の周囲、特に後方へ近づかない。運転者は補助者の位置を確認し、声を掛けてから動かす。姿が見えない、合図が聞き取れない、予定外の人が近づいた場合は、いったん停止して位置関係を確かめる運用にする。
詰まりは「あと少し」で触らない
搬送不良やわらの詰まりが起きたときは、動いたまま手を出さない。農林水産省と千葉県はいずれも、詰まりの除去や点検・清掃を行う前にエンジンを停止するよう示している。停止後の操作、刈取部を支える方法、カバーの開閉などは機種ごとに異なるため、取扱説明書に従う。手こぎ作業では、巻き込まれやすい手袋、軍手、タオルなどを外し、手を機械内部へ入れないことも重要である。
詰まりが繰り返される場合は、現場で原因を決めつけて無理に作業を続けない。農研機構は、作業速度を下げる、機械への供給量を減らす、頻繁に詰まる場合は修理を検討するとしている。軸受けへの注油や軸に巻き付いたわらの除去など、説明書で認められた整備は作業前に済ませる。異音、振動、焦げたような臭いなど普段と異なる状態を感じたら停止し、必要に応じて販売店や整備担当者へ相談する。
前日確認を一枚の作業票に残す
確認事項は「気を付ける」で終わらせず、ほ場ごとの作業票に残す。最低限、使用する進入口、危険箇所と目印、運転者と補助者、待機場所、合図、詰まり時の停止手順、取扱説明書の保管場所、緊急連絡手段を記入する。当日の担当者が変わる場合も、この一枚を見ながら実機の周囲を歩けば、申し送りの抜けを見つけやすい。
収穫開始日の朝は、日常点検を行い、前日に決めた行路と合図を再確認する。長時間作業を前提に詰め込まず、休憩と作業終了時刻も先に組み込む。千葉県は、日常・定期点検、組作業での声掛け、こまめな休憩を農業機械作業の注意点としている。作業量よりも「停止して確かめられる余裕」を工程に残すことが、安全な収穫開始につながる。