排水対策の締切を「雨の降り始め」より前に置く
農林水産省の2026年6月26日付通知は、局地的な大雨が予想される地域では速やかな排水に備え、過去に冠水したほ場や地域を重点的に扱うよう示しています。水稲、麦、豆類などでは溝切りや明きょの点検・補修、野菜では溝切りや畦立て、果樹では集排水路の点検・清掃が事前対策に挙げられています。これらは雨量が増えてから行う緊急作業ではなく、安全に歩ける乾いた時間帯に終える作業です。
農場では、過去に水が滞留した場所、道路下の暗きょ、ほ場出口、集水ます、落ち葉や刈草が集まりやすい格子部分を地図や航空写真に印を付けます。点検日、担当者、詰まりの有無、処置、未処置箇所を1枚に残せば、雨の直前に全員が同じ場所へ向かう重複も防げます。共有水路や土地改良施設は、勝手にゲートを操作したり構造物を外したりせず、管理者へ連絡して対応範囲を確認します。
作業の締切は「雨が強くなったら」では遅すぎます。気象情報を確認した時点で、屋外作業を終える予定時刻を朝礼や連絡網で共有し、その時刻以降に未処置箇所が残っても現地対応を追加しないルールにします。ほ場を守る作業と、人が水路へ近づかない判断を同じ担当者のその場の判断に任せないことが重要です。
洪水キキクルは「見に行く合図」ではなく中止判断に使う
気象庁の洪水キキクルは、中小河川の洪水危険度を5段階で地図表示し、判定には3時間先までの流域雨量指数の予測値が使われます。上流域の雨による急な増水の可能性を早めに確認できるため、作業終了の前倒しや従業員への連絡に利用できます。ただし、個々の農業用水路の流量や足場の安全を直接示す情報ではありません。画面上の色が低いことを、現地へ行ってよい根拠にはしないでください。
農場の連絡表には、確認する市町村の防災情報、気象庁の警報・注意報、洪水キキクル、土地改良区や水利組合からの連絡先をまとめます。危険度が高まる予測を確認したら、現地確認へ切り替えるのではなく、屋外作業を終了し、電話やオンライン連絡だけで状況を共有します。自治体から避難情報が出ている場合は、その指示を最優先にします。
中止ルールは「社長が止める」だけでは不十分です。「予定時刻を過ぎた」「自治体や施設管理者から中止・退避の連絡があった」「移動経路に冠水、強い流れ、土砂流出などが見える」のいずれかに該当したら、各作業者が自分で現場へ向かわないと決められるよう文章にします。連絡がつかない場合も、確認のために単独で出発しないことを明記します。
荒天中の役割を「現場担当」から「連絡担当」へ変える
雨が強まった後は、水路担当者の仕事を現地巡回から情報整理へ切り替えます。気象情報を確認する人、土地改良区や施設管理者へ異常を伝える人、従業員の退避と帰宅を確認する人を事前に決めます。連絡時に必要な水路名、施設番号、ほ場位置、最後に安全に確認できた時刻を台帳へ記載しておくと、荒天中に場所を確かめるための外出を避けられます。
排水ポンプやゲートを扱う経営では、操作できる人、停止手順、停電時の扱い、管理者への連絡順序を機器の近くではなく事務所側にも保管します。農林水産省の通知は、浸水した農業機械について、メーカーの点検を受けるまでスイッチを入れないよう注意しています。復旧を急いで通電する行為も見回りと同様に、二次災害を招く可能性があります。
地域の水路は一つの農場だけで完結しません。上流の流入や下流河川の水位によって、単独の判断で排水できない場合があります。異常を見つけても流れの中へ入ったり、詰まりへ手を伸ばしたりせず、施設管理者へ位置と状況を伝えます。被害写真が必要でも、安全な場所から撮影できなければ後回しにします。
雨がやんでも、単独巡回は再開しない
農林水産省の農業用排水路安全管理資料は、大雨や台風が収まった後に十分な安全を確保して点検することに加え、複数人での作業、現場に応じた手順と安全装備、作業開始・終了時の報告、ライフジャケットとヘルメットの着用などを挙げています。雨がやんだことは再開条件の一つにすぎず、水路の増水、滑りやすい足場、道路冠水が残っていれば見回りは延期します。
再開前には、施設管理者からの情報、移動経路、河川・水路の水位、斜面や路肩の状態を安全な場所から確認します。行く場合は単独行動を避け、行き先、予定経路、開始時刻、帰着予定時刻を第三者へ報告します。水際へ降りる必要がある作業は、普段の長靴だけで対応せず、管理者が定めた作業手順と装備に従います。
最後に、今回詰まった場所や通行できなかった経路を地図へ追記します。次の大雨前には、その地点を優先して平時に清掃・補修し、手すり、転落防止柵、遠隔監視など管理者と検討すべき対策を分けます。「雨のたびに人が見に行かなければならない場所」を一つずつ減らすことが、継続的な排水対策と作業者の安全を両立させます。