農林水産省は2026年度から、7月1日~9月30日を「夏の熱中症等対策声かけ期間」とし、「いのちをうばう、夏のひとり作業」を掲げている。背景には、農作業中の熱中症による死亡者が2024年に59人となり、前年の37人から22人増えたことがある。草刈り、防除準備、ハウス管理、水田の見回りなど、短時間のつもりで始めた作業でも、暑熱環境と単独作業が重なると発見や救助が遅れやすい。

対策の出発点は、熱中症を個人の体力や注意力の問題にしないことだ。家族経営でも、朝の打ち合わせで作業場所、開始・終了予定時刻、連絡方法を共有し、終了連絡がなければ誰が確認するかを決める。離れた圃場へ一人で行く場合は、携帯電話を身に着け、車内や荷物の中に置いたままにしない。圏外となる場所は事前に洗い出し、二人作業への変更や定時巡回を組み込む。

暑さ指数(WBGT)は、気温だけでなく湿度、日射・輻射、風の影響を反映する指標である。環境省の熱中症警戒アラートは、予報区内のいずれかの情報提供地点でWBGTの最高値が33以上と予測される場合に発表される。アラートの有無だけで判断せず、作業前日に翌日の予測を確認し、当日朝にも更新情報を見る。ハウス内、風の弱い畦畔、照り返しの強い作業場所では公表地点と条件が異なるため、可能なら現場用のWBGT計でも確認する。

確認した数値は、単なる注意喚起ではなく作業計画に結び付ける。重い物を運ぶ、保護具を着ける、刈払機を扱うといった負荷の高い作業は涼しい時間帯へ移し、休憩場所には日陰または冷房、水分、必要に応じた塩分、身体を冷やす資材を用意する。睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食を取っていない人には作業変更も選択肢とする。服装は通気性・透湿性を確保し、直射日光下では通気性のよい帽子を使う。水分や塩分の摂取について医師から指示を受けている人は、その指示を優先する。

労働者を雇用する経営体では、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則への対応が必要である。WBGT28以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業について、熱中症のおそれを報告する体制と、重篤化を防ぐ手順をあらかじめ整備し、関係者へ周知しなければならない。短期雇用者や外国人材にも伝わるよう、氏名入り連絡網、図中心の手順書、作業場所の住所や圃場番号を休憩所と作業車に掲示する。

運用は複雑にしすぎない。例えば、始業時に管理者がWBGTと体調を確認し、作業中は二人一組または決めた間隔で相互連絡し、異変を感じた本人や発見者は直ちに管理者へ報告する、という一本の流れにする。管理者不在時の代行者、119番通報を判断・実行する人、救急車を誘導する人も決めておく。ウェアラブル機器は補助にはなるが、厚生労働省も状態を必ず正確に把握できるとは限らないとしており、声かけや巡視と組み合わせる必要がある。

めまい、大量の発汗、立ちくらみ、筋肉痛、吐き気、強い倦怠感、反応のおかしさなどが見られたら、現場で病名や重症度を判定しようとせず、まず作業を中断する。本人を冷房のある室内や風通しのよい日陰へ移し、衣服を緩め、首の周り、脇の下、足の付け根などを冷やす。意識がはっきりして自力で飲める場合に限り水分などを補給し、一人にせず経過を確認する。

意識がない、呼びかけへの応答がおかしい、または自力で水分を飲めない場合は、直ちに119番へ通報する。飲み込めない人へ無理に飲ませてはいけない。救急隊を待つ間も涼しい場所で冷却を続け、圃場入口に誘導者を出す。救急対応を迷わないため、各作業場所の住所、進入路、目印、緊急連絡先を紙でも携帯し、事故後は発生時刻、作業内容、WBGT、連絡と対応の経過を記録して手順の改善につなげる。