農林水産省によると、2024年の農作業中の熱中症による死亡者は59人で、前年の37人から22人増えた。これを受け、2026年度は「いのちをうばう、夏のひとり作業」を掲げ、7月から9月まで全国で声かけ運動が行われている。盛夏の事故対策では、帽子や飲料を用意するだけでなく、異変が起きた人を早く発見できる体制が重要になる。

家族経営でも「同じ家にいるから行き先は分かる」と考えず、作業者、圃場名、作業内容、開始時刻、終了予定時刻を共有する。圃場名だけで場所が伝わらない場合は、地図の共有位置、進入口、車を止める場所まで残す。応援や救急隊が迷わず近づける情報にしておくことが実用上のポイントだ。

環境省の暑さ指数(WBGT)は、気温だけでなく湿度、日射・輻射、風の影響を踏まえた指標である。熱中症警戒アラートは予報区内のいずれかの地点で日最高WBGTが33以上と予測される場合に、原則として前日17時ごろと当日5時ごろに発表される。前日に翌日の予測を確認し、当日の出発前にも更新情報を見る二段階の確認にすると、収穫や防除、草管理などの配置を早めに変更しやすい。

アラートの有無だけで実施を決めない。予報区の値と、日射を受ける畑、風の弱いハウス、照り返しの強い作業場所では条件が異なるため、可能なら作業場所でWBGTを測る。値が高まる時間帯の重作業を早朝へ移す、作業時間を短く区切る、涼しい場所で行える選別や記録作業へ切り替えるなど、当日の工程表に代替作業を用意しておく。

やむを得ず単独で作業する日は、「開始連絡」「作業中の定時連絡」「終了連絡」を一組にする。定時連絡の時刻は、休憩時刻や圃場移動の区切りに合わせてあらかじめ設定し、作業者から短い返信を返す。電話が鳴っただけ、位置情報が動いているだけでは体調を確認できないため、双方向で応答する方法が望ましい。

連絡がない場合の手順も先に書く。例えば、再連絡、近くにいる人への確認依頼、現場確認、緊急通報という順序と担当者を決める。ただし、状況から生命の危険が考えられるときは順番を待たず119番へ連絡する。携帯電話に加え、本人の氏名、緊急連絡先、圃場位置などを記したカードを携行すると、救助側へ情報を渡しやすい。

労働者を使用する農業経営体では、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則にも注意が必要だ。WBGT28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業が見込まれる場合、事業者には、異変を報告する体制、悪化を防ぐ措置と実施手順の作成、それらの作業者への周知が義務付けられている。厚生労働省は、巡視、二人以上で互いを確認するバディ制、責任者との定期連絡などを例示している。

雇用関係のない家族だけの作業であっても、この仕組みは安全管理のひな型になる。報告先、119番を呼ぶ人、涼しい退避場所、身体を冷やす物品、圃場への進入経路をA4用紙一枚にまとめ、事務所や休憩場所へ掲示する。口頭で一度伝えて終わらせず、新しい作業者や応援者にも作業開始前に共有する。

めまい、吐き気、頭痛、強いだるさ、判断力の低下など普段と違う状態が見られたら、作業を直ちに中断し、風通しのよい日陰や冷房のある場所へ移す。衣服を緩め、首の周り、脇の下、足の付け根などを冷やす。応答でき、自力で飲める場合に限り水分・塩分を補給し、ひとりにはしない。

呼びかけへの反応がおかしい、意識がない、または自力で水分を取れない場合は、無理に飲ませず直ちに119番へ連絡する。応急対応後も状態が改善しない場合は速やかに医療機関へつなぐ。「予定分だけ終える」「少し休んだから戻る」を優先せず、再開や帰宅を本人だけの判断に任せない手順を経営体で共有しておきたい。